「国へ帰れ」過熱する外国人ヘイト、入管職員による暴行…このまま新・入管法を施行していいのか

「国へ帰れ」過熱する外国人ヘイト、入管職員による暴行…このまま新・入管法を施行していいのか

2023年6月、自民党を筆頭とした賛成多数で、新たな難民入管法(出入国管理及び難民認定法)が可決・成立した。2024年6月までに施行されるが、これに納得していない野党議員、弁護士、市民たちがいる。

名古屋入管の施設内で亡くなったウィシュマ・サンダマリさんの件、大阪入管で酒に酔った状態で診察していた医師、難民審査参与員のずさんな審査……これらについて審議もなされず、うやむやなままの強行採決だったと、問題を感じている者も少なくない。入管をめぐる課題と現状をあげておきたい。

◆入管職員による暴力「日本人は好きだが入管はひどい」

たびたび職員の暴力が問題となっている入管施設。これだけでも十分すぎるほど問題だが、是正もされずに、入管の意のままになる新たな入管法が施行されようとしている。

2021年11月ハイチアメリカ人のマークゴードンさんが国を提訴し、裁判が続いている。マークさんは日本での永住権を持っていたが、病気治療のため、アメリカに一時帰国をしていた。治療が長引いてしまい再入国ビザの期限に間にあわなかったため、入国を認められず、2018年に東京入管に収容された。

マークさんは、日本で生活の基盤を築いていたためアメリカに戻ることもできなかった。1990年代日本人女性と結婚し、日本でハイチ料理店を経営し、子どもを育て、税金を納め、永住権も持っていた。世間が言う“不法滞在”のイメージとは全然違うが、収容されてしまったのだ。

事件は2020年6月。収容施設内でコロナが蔓延し、職員が石鹸を被収容者に配り始めた際に、喘息持ちだったマークさんは匂いが合わず、石鹸を突き返した。それを引き金に6~8人の職員がマークさんを囲み、暴力をふるった。マークさんによると、職員に「金を出せ」とまで言われたというが、裁判所に提出された映像の一部には、肝心の音声が入っていなかった。今でも思い出すと、その時の恐怖で夜も眠れなくなり、損傷した腰の痛みに苦しんでいるという。国に対し3000万円の損害賠償を求めている。

「入管は悪魔。日本人は好きだが、入管はひどい。これは黒人差別によるものでもあるだろう」と怒りを露わにするマークさん。他にも、被収容者が暴力を受けたという訴えは相次いでいる。

フィリピン人女性も提訴

また、2023年フィリピン人女性のドミンゴ・マリベスさんも国を相手取り、裁判を始めた。

2020年4月、長期収容に抗議する100人近い女性たちが、盾を持った職員たちに暴力的な制圧を受けた。ドミンゴさんも痛めつけられた一人で、床に顔を叩きつけられ、腕を捻りあげられるなどの暴行を受け、今でも腰や首などが痛み、手首がうまく動かないと言っている。笹本潤弁護士は証拠となるビデオを求めているが、入管側は、他の映像が公開されていることを理由に、「保安上の理由がある」として、出すことを拒否している。

◆日本で20年、妻は日本人。なのに強制送還の対象に

こういった課題があるなか、新・入管法は2024年6月までに施行される。施行を止めたいと、当事者と支援者による記者会見2023年12月に開かれた。

新しい入管法では難民申請が2回までとなり、よほどの理由がなければ3回目は受けられず強制送還の対象となる。母国で身の危険を感じている人には、非常に恐怖を感じる法律だ。

スリランカ出身で難民申請者のナビンさんも発言者として参加していた。

「私は、来日20年目になります。難民申請は2回目です。新しい法律で、いつ送還されるのか不安になる。日本人女性と付き合って19年、結婚して7年目ですが、配偶者ビザも認めてもらえない。職員には『偽装結婚と疑ってはいない』と3回言われたことがある。それだったらビザを出してほしいと言ったのですが、『上が決めることだから』といつも逃げられてしまう」(ナビンさん)

◆「私たちを使ってほしい、税金も納められる」

ナビンさんは結婚前、通っていた日本語学校の倒産によって、留学ビザを失った。だが、当時スリランカは内戦状態にあり、今も激しい政治的対立が続いている。送還されれば迫害の危険があるという。

「自分も収容の経験があるが辛かった。昔、『(在留外国人は)煮て食おうが焼いて食おうが自由』と言った法務省の人がいたが(※)、まさに今もそれを続けている状態。例えば、虫歯が痛かったら外にいれば医者に行ける。だけど収容施設にいると早くても1か月待たされる。それでもちゃんとした治療をされずに、薬をもらうだけだったりする。

岸田さんが人手不足の問題を言っているのを聞いた。なら私たちにビザを出して、私たちが働いて税金を納めることができる。私たちを使ってほしい」(同)

1965年法務省入管局参事官だった池上努氏の著書『法的地位200の質問』内

◆過熱するヘイトスピーチ

改正入管法が成立したあたりから、特に、クルド人ネット誹謗中傷する投稿も相次いでいる。

クルド人は“国を持たない少数民族”としてトルコなどで弾圧され、迫害を逃れて、世界で約5万人が難民認定されている。そんな背景さえ知らずに、「国へ帰れ」などと言うヘイトスピーチが過熱する一方だ。

2023年8月に当時の法務大臣が、日本生まれの子供約140人とその家族に在留特別許可を出す方針を発表し、それに該当する子供たちは歓喜した。だが、12月になっても在留許可が出たという声をほとんど聞かない。

◆学校で「国に帰れ」と言われる子どもたち

日本生まれでトルコ国籍のクルド人Aさん(高校1年生)は、トルコ語もクルド語もできない。友達も食事も文化もトルコのことはわからない。食道の病気を持っていて手術も受けたが、健康保険証がないため医療費負担が700万円を超えている。バイトをしたいが仕事できないでいる。

「私も普通の人間だし、みんな血は赤いはず。何もしていないのにSNSで批判されるのは辛いし、どうしたらいいのかわからない。でも友達は何も言わないでくれる。親友とずっと一緒にいたい、強制送還しないでほしい」

Aさんは日本生まれだが、父親が偽造パスポートで来日しているため、今回の在留資格に該当するかわからない。偽造パスポートであっても、「庇護申請国へ不法入国しまた不法にいることを理由として、難民を罰してはいけない」(難民条約第31条)という規定があるのだが…。

中学一年生クルド人・Bさんも日本生まれだが、ずっと健康保険証がない。最近40度以上の高熱で救急車に運ばれたが、治療費が2万円近くかかった。母子家庭なので生活は大変で、母親も通院していて払えていない治療費もある。母親のためにもこの状況を何とかしたいと語る。

「学校に行くようにしているけど、差別されていて、国に帰れと言われる。教室に入れないで相談室にいる。辛いです。子供だけじゃ変えられない。入管は何を言っても変わってくれないから大人に頑張ってほしい」(Bさん)と訴えた。

◆学校で先生に「私たちにも人権はありますか?」と聞いたら…

義務教育は受けているが、日本生まれではなかったために今回の在留資格には該当しない、クルド人高校生の姉妹がいる。日本に来て9年間は半年間の特定ビザがあったが、あるとき家族で入管に呼び出され、在留資格を失った。

「今、学校で自由権を学んでいる。だけど自分にはない。入管の許可がないとどこにも行けない。『私にも人権がありますか?』と先生に聞いた。『決まっている法律は変えることはできない』と言われて納得できなかった。在留カードがあるかないかで決められているだけ、日本人に生まれていないだけ。保育士という夢があるから学び続けたい」(高1の妹)

高2の姉は、看護師を目指している。大学を卒業して看護師資格を取り、ビザを取ることを考えている。

日本人でも声を上げる人たちがいる

苦境に置かれた外国人に対して、支援の声を上げる日本人市民たちもいる。

毎週金曜日、“入管法改悪反対アクション”を高田馬場駅前で行っている佐久間雅子さんは、「子供たちがこのように訴えているのに、大人がそれに応えられていない。私たち大人は子供たちを守る責任がある」と語る。

笠置英史さんは、新・入管法が成立した後も毎週月曜日品川駅の入管行きバス停で「朝のあいさつ運動」と称し、入管法に反対するスタンディングしている。

「朝はしんどいけど、当事者の人たちはもっと大変です。この行動は、あなたたちの味方だということを示すのと、入管職員に対して“見ていますよ”という意思表示でやっている。採決されても諦められるわけがない、人の命がかかっている」(笠置さん)

新・入管法の施行を止めるために、より多くの人に声を上げてほしいと訴える。

川口市民からも、クルド人ヘイトに抗議する声

また、川口市在住の米山功治さんは、クルド人が多く住む川口市が「危ない街」のようにネットで大袈裟に言われていることに異議を唱えている。

「今、川口市に暮らすクルド人へのヘイトが酷すぎる。ついには『自警団メンバー募集中』という書き込みまで出てきた。ネットで『クルド』を検索すると、ヘイトスピーチだらけで、地獄絵図です。クルドの子どもたちのためにも、なんとか事態を打開したい。事実は違うということをメディアに広めていってほしい」(米山さん)

大人は、子どもたちの声にどこまで答えられるだろうか。ただ、ビザを取って働きたい、健康保険証が欲しい、普通に生きたい。これは贅沢な望みなのだろうか?
 
新・入管法施行まであと半年あまり。問題山積のなか、果たして、このまま施行していいのだろうか?

<文/織田朝日>

【織田朝日】
おだあさひTwitter ID:@freeasahi外国人支援団体「編む夢企画」主宰。著書に『となりの難民――日本が認めない99%の人たちのSOS』(旬報社)、入管収容所の実態をマンガで描いた『ある日の入管』(扶桑社)

職員に集団暴行をうけるマークさん(代理人提供)

(出典 news.nicovideo.jp)

出入国在留管理庁 (入管からのリダイレクト)
^ “外国人労働者拡大、改正入管法施行 入管庁発足”. 日本経済新聞. https://ift.tt/wJ1rUph 2019年4月1日閲覧。  ^ 宮崎繁樹「出入国管理と国際
44キロバイト (4,619 語) – 2023年12月22日 (金) 16:53
外国人ヘイトの激化は社会的な問題の一部であり、その解決には教育や情報の普及が不可欠です。
新・入管法の施行は、公正で人権を尊重した移民の管理を目指す姿勢を反映していると言えます。

<このニュースへのネットの反応>

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