インターネットは「愚民」を量産する…日本の政治家と官僚が”ネット炎上”を大歓迎するワケ

インターネットは「愚民」を量産する…日本の政治家と官僚が”ネット炎上”を大歓迎するワケ

国民の声を政府に届けるにはどうすればいいか。作家の佐藤優さんは「首相官邸の幹部たちにとってインターネット上の情報はノイズであり、ほとんど見ていない。不平不満をネット上で発言しても、残念ながらパワーエリートたちには届かない」という――。

※本稿は、佐藤優佐藤優の特別講義 民主主義の危機』(Gakken)の一部を再編集したものです。

■首相官邸にとってネット情報は「ノイズ」

インターネットの情報をもとに動くと、どんなことが起こるでしょう。もし政権与党がふだんからインターネット上の真偽不明な情報に振り回されていたら、国家政策を間違えてしまうでしょう。投資家があやふやな情報を信じて投資したら、大きな損益を出してしまう可能性があります。もちろん、偽情報にあえて乗っかって株価操作をする仕手戦を行うというのであれば、それは別の話ですが。

インターネットによって情報の信頼性が揺らぎ、情報過多となった現代ですが、危惧すべき最大の問題は、パワーエリートとそれ以外の人々との間で分断が起きることです。インターネットが普及したことで、情報に一喜一憂し踊っているだけの一般の人たちと、エリート層が切り離されてしまう可能性があるのです。

たとえば首相官邸の幹部はインターネットをほとんど見ていません。部下がインターネット上の情報から精査して上げてきたものだけに目を通します。官邸の中枢はネット情報を信用しておらず、ただのノイズだと思っています。

■重要な情報とノイズを見分けられるか

情報処理の基本はノイズと正しい情報とを見分けることです。官邸の人間にとっては、インターネット上の発言は「言いたいことがあるならば、別に好きに言わせておけばいい」というくらいのもので、気にしていないのです。

西垣通も『ネット社会の「正義」とは何か』の中で、「巨大スクリーンでつまらない映画を観てもすぐに忘れてしまうが、たった17文字の名句にふれて人生が変わることもある。両者はまったく別物である。だから、われわれをとりまく情報環境におけるデジタル・データの急激な増加が、必ずしも濃密なコミュニケーションをもたらすとは言い切れない」と指摘しています。

これは情報とノイズの違いをはっきりと示した重要な発言です。情報の重要さは量にあるのではなく、大海にある無限の情報の中から役に立つものを取捨選択して見つけ出すことにあります。その意味で、オープンソース・インテリジェンスは本当のプロでなくてはできないことなのです。

■インターネットは判断力と思考力を削いでいく

インターネットで発言している人たちに対して、パワーエリートたちは「カエルには、田んぼの中で好きなだけ歌わせとけ」と思っています。譬(たと)えは悪いかもしれませんが、「お前は魔法をかけられた王子さまじゃなく、ただのカエルなのだからお城には一生行けないだろう。だから、いつまでも田んぼの中でゲコゲコ歌っていろ」ということです。

政局や重要な政治、経済、社会問題とは関係のない田んぼのような場所で、カエルのような小さな存在がいくら騒いでいても体制には影響がないので、好きにしていればいいといことなのです。

為政者からすると、国民が愚民であればあるほど扇動しやすくなります。インターネットは愚民化を促すツールになり得る要素を設計思想の中に持っているので、エリート層の人間はそれをうまく活用すればよいとすら思っています。

この点について、現代思想評論家の高田明典は『情報汚染の時代』において、「過剰による情報汚染は、特に近年指摘されるようになったものであり、あまりにも多くの情報が私たち個人個人に降り注ぎ、処理の効率が落ちて、意思決定できなくなることをいう」という指摘を行っています。

インターネットによる情報過多には、ユーザー一人ひとりの判断力を鈍らせ、思考力をどんどん削いでいく危険性があるのです。

■利用する側ではなく、搾取される側に

そもそも、インターネットには、不平や不満を書き散らかしてフラストレーションを発散するためのツールという側面があるため、まさに愚民化を促すにはうってつけの道具になり得るともいえるのです。

インターネットへのアクセスを利用して、企業がマーケティングやビジネスを行い、収益を上げているという現状も問題といえるでしょう。

社会学者の鈴木謙介は、『ウェブ社会のゆくえ』で、「私たちは、空間も、時間も、そして人間関係も、私たちを取り巻くあらゆる現実の要素がウェブの情報として取り込まれ、それこそが現実であるかのごとく感じさせられるようになるという変化に直面している。

見方を変えれば、いまウェブは現実のあらゆる要素を取り込んで、もうひとつの現実を作り出し、それをビジネスの要素にしようとしている。つまり『ウェブが現実を資源化している』のである」と述べています。

一般国民が日常的にインターネットを使用すればするほど儲かる企業があります。インターネットを利用して便利だと思っていたつもりが、知らない間に独占資本の利益を生み出すシステムに利用されていることもある。いわば、ネット上の搾取の構造です。

■ネットの声はパワーエリートには届かない

言いたいことがあれば、インターネットを通じてどんどん発信したらいいと、官邸の関係者は思っているはずです。そういった発言は政策に影響がなく、大多数の国民を動かす力にもなり得ないと、彼らは思っているからです。

インターネット上の過多な情報も同じで、大局にまったく影響はないと考えています。もしも日本がアメリカ型の民主主義国家であったなら、影響が出るかもしれません。しかし、日本は根本が天皇制のシステムのままで民主主義化を行おうとする、ちぐはぐな“民本主義”の国です。国の根っこの部分が君主制で家産国家ですから、国民のどんな発言も大局にまったく影響がないのです。

つまり、国民の発言は行政の上層部にまで上がっていかずに、遮断されているということになります。そうであれば、インターネット上の声は残念ながらカエルの声と同じようなものということになります。

こうした一種の専制的な政治をやっている分には、国民の声が直接政府を動かすことはありません。現在、日本はコロナや、ウクライナ戦争、台湾海峡有事といったものによって、行政権が事実上優位になっています。そのため、今の日本は家産政治国家ともいえるような専制化した状態になっているのです。

■ネットが不満を吸収することはむしろ喜ばしい

むしろ、インターネットでみなが騒いでくれるのは、政府にとっては喜ばしいことですらあります。そこで無駄なエネルギーを使ってくれれば、反抗心を持った国民が組織化された政治運動に入ってくることはなく、当然、治安もよくなり、政府にとって非常に好都合な状況となるからです。

もちろん政府は、聞く耳を持っているという態度は常に見せています。しかし、お問い合わせ用の電話番号はあるが機械音声の自動応答状態にしておいたり、メールアドレスだけ記載しておいて積極的回答をしないようにしていたりなど、十分なコンタクトをとることができない状態にしておくためのさまざまな細工を施しておくことがあります。

このように、日本では、パワーエリート一般国民との大きな距離を生み出しているのは、インターネットによる情報量の過多という問題だけではありません。

国家の機密に深く関係する問題に関しては、一般国民があまり知らないさまざまなしくみがあって、それがパワーエリートにとってきわめて好都合に働いているというのが、日本の現状なのです。

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佐藤 優さとう・まさる)
作家・元外務省主任分析官
1960年東京都生まれ。85年同志社大学大学院神学研究科修了。2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。『自壊する帝国』(新潮社)で新潮ドキュメント賞、大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『獄中記』(岩波書店)、『交渉術』(文藝春秋)など著書多数。

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※写真はイメージです – 写真=iStock.com/Andrii Yalanskyi

(出典 news.nicovideo.jp)

日本の政治家や官僚がネット炎上を歓迎する理由には、特に選挙活動や世論形成における策略が見え隠れします。
炎上は時に不都合な事実を覆い隠し、対立を煽ることで、特定の利益を持つ者たちに有利な状況を作り出すことがあります。
この状況を打破するためには、私たち市民が冷静な議論を行い、情報の健全な流通を促進することが求められています。

インターネットの情報だけで真実かどうか判断するのは難しい
それはマスコミも同じこと
マスコミの方が情報操作しやすいのだから
けれど、現状その操作がうまくいかなくなったという事かな

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