民法第百九十条 (悪意の占有者による果実の返還等)

民法第百九十条 (悪意の占有者による果実の返還等)

第百九十条 悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。

民法第190条解説:悪意の占有者の義務

条文の意味

民法第190条は、悪意の占有者が、占有物から生じた果実返還し、既に消費したり、過失によって損傷させたり、あるいは収取を怠った場合には、その代価償還する義務を負う、という内容を定めています。

もう少し詳しく説明すると、例えば、他人の土地が自分のものだと知りながら耕作し、そこから収穫を得た場合、その収穫物を真の所有者に返さなければならないだけでなく、既に食べてしまったり、ダメにしてしまったりした収穫物の分についても、その価額を支払わなければなりません。

条文の目的

この条文の目的は、権利の保護公平な関係の維持にあります。

  • 権利の保護: 真の所有者の権利を保護するため、悪意の占有者が不正に得た利益を返還させることを目的としています。
  • 公平な関係: 悪意の占有者は、故意または過失によって損害を与えた場合、その責任を負うべきという、公平な関係を維持することを目的としています。

条文の解釈と注意点

  • 悪意の占有者: 故意に、または重大な過失によって、他人の物を占有している者を指します。
  • 果実: 天然の果実だけでなく、使用料、賃料などの文言の果実も含まれます。
  • 返還、償還: 既に消費したり、損傷させた果実については、その代価を支払う必要があります。

具体的な事例

  • 土地の占有: 他人の土地が自分のものだと知りながら耕作し、収穫物をすべて売却してしまった場合、売却代金を返還する義務が生じます。
  • 建物の占有: 他人の建物を借りていることを知りながら、家賃を滞納していた場合、滞納した家賃を返還する義務が生じます。

2 前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。

民法第189条第2項の補足:暴行・強迫・隠匿による占有者への準用

条文の意味

民法第189条第2項は、暴行・強迫・隠匿といった不正な手段によって占有している者についても、善意の占有者と同様に扱われる場合があることを規定しています。

具体的には、これらの手段によって占有を始めた者が、本権の訴えで敗訴した場合、その訴えが提起された時から悪意の占有者とみなされ、第190条の規定に基づき、果実を返還したり、損害賠償をする義務が生じます。

準用される理由

  • 権利の保護: 暴行・強迫・隠匿によって占有された者は、その意思に反して占有されている状態であり、真の所有者の権利が侵害されていると考えられます。そのため、この条項によって、真の所有者の権利を保護する目的があります。
  • 法秩序の維持: 不正な手段による占有を許容することは、法秩序を乱すことになります。この条項は、このような不正な行為を抑制し、法秩序を維持する役割も担っています。

具体的な事例

  • 暴行による占有: AさんがBさんの家を武力で占拠した場合、Aさんは暴行によって占有している者となり、この条項が適用されます。
  • 強迫による占有: CさんがDさんに脅迫して、Dさんの土地を譲り受けた場合、Cさんは強迫によって占有している者となり、この条項が適用されます。
  • 隠匿による占有: EさんがFさんの財物を隠してしまい、あたかも自分のもののように振る舞っている場合、Eさんは隠匿によって占有している者となり、この条項が適用される可能性があります。

注意点

  • 善意の期間: 暴行・強迫・隠匿によって占有を開始した場合、原則として善意の期間は認められません。
  • 他の規定との関係: この条項は、第189条第1項の規定を補足するものであり、その他の関連規定(例えば、不当利得の返還に関する規定)との関係で解釈される必要があります。

まとめ

民法第189条第2項は、暴行・強迫・隠匿といった不正な手段による占有についても、その後の法的効果を明確にする重要な規定です。
この条項は、真の所有者の権利を保護し、法秩序を維持する上で不可欠な役割を果たしています。

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