民法第百四十八条 (強制執行等による時効の完成猶予及び更新)

民法第百四十八条 (強制執行等による時効の完成猶予及び更新)

第百四十八条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。

民法第148条の解説:強制執行等による時効の完成猶予

条文の意味

民法第148条は、強制執行など、債務者の財産を差し押さえて債権を回収するような行為が行われている間は、時効が完成しない、つまり、時効の進行が中断されることを定めています。

具体的にどのような場合に時効が中断されるのか?

  1. 強制執行: 裁判所の許可を得て、債務者の財産を差し押さえる行為
  2. 担保権の実行: 例えば、抵当権に基づいて不動産を競売にかける行為
  3. 留置権による競売: 物件を預かっている者が、債権回収のためにその物件を競売にかける行為
  4. 財産開示手続: 債務者の財産を調査する手続き
  5. 第三者からの情報取得手続: 債務者以外の第三者から、債務者の財産に関する情報を取得する手続き

これらの手続きが行われている間は、債権者は、その手続きが終わるまで、時効を心配することなく、債権回収の手続きを進めることができます。

重要なポイント

  • 申立ての取下げなど: 上記の手続きが、申立ての取り下げや法律違反によって取り消された場合、その終了から6ヶ月間は、時効は完成しません。
  • 目的: この条文の目的は、債権者が債務者の財産を執行することによって債権回収を図る機会を保障することです。

  • 不動産の競売: AさんがBさんからお金を借りており、BさんがAさんの不動産に設定された抵当権を実行し、競売を申し立てた場合、競売手続きが終了するまでは、Bさんの債権の時効は進行しません。

一 強制執行

民法第148条第1項:強制執行による時効の中断

強制執行とは?

民法第148条第1項は、債権者が債務者に対して強制的に債務の履行をさせるための手続きである「強制執行」について、時効との関係を規定しています。

強制執行が行われている間は、債権の時効が進行しない、つまり時効が中断されるということです。

強制執行が時効を中断させる理由

  • 債権回収の機会保障: 債権者は、債務者の財産を差し押さえたり、行為を強制したりすることで、債権回収の機会を確保することができます。
  • 権利行使の促進: 強制執行手続き中は、債務者は債権者の権利行使に対して積極的に対応せざるを得ない状況に置かれます。

強制執行の種類

強制執行には、大きく分けて以下の種類があります。

  • 金銭執行: 金銭の支払いを強制する執行
    • 例:銀行口座の差し押さえ、給与の差押え
  • 現物執行: 物の引渡しや行為の強制を行う執行
    • 例:不動産の明渡し、特定の行為の実施
  • 不動産執行: 不動産を競売にかける執行

強制執行の手続きの流れ

  1. 債務名義の取得: 裁判所から判決書や支払督促などの債務名義を取得します。
  2. 強制執行の申立て: 裁判所に強制執行の申立てを行います。
  3. 執行官による執行: 裁判所から指名された執行官が、債務者の財産を差し押さえたり、行為を強制したりします。
  4. 債権の回収: 差し押さえた財産を売却したり、債務者から直接金銭を回収したりして、債権者が債権を得ます。

強制執行と時効の関係

  • 時効の中断: 強制執行が開始されると、その間は時効が進行しません。
  • 時効の再開: 強制執行が終了すると、時効が再開されます。

二 担保権の実行

民法第148条第2項:担保権の実行(補足)

担保権の実行と時効中断の深掘り

民法第148条第2項は、担保権の実行が、時効の中断事由の一つであることを定めています。これは、債権者が担保物(不動産、動産など)を処分することで債権を回収する手続きを行っている間は、その債権の時効が進行しないということを意味します。

担保権の実行の種類

担保権の実行には、主に以下の方法があります。

  • 競売: 不動産を競売にかける。
  • 売却: 動産を売却する。
  • 換価: その他の方法で担保物を金銭に換える。

時効中断の理由

  • 債権回収の機会保障: 債権者は、担保物処分によって債権回収の機会を確保することができます。
  • 権利行使の促進: 債務者は、担保物処分の手続き進行中に、債権者の権利行使に対して積極的に対応せざるを得ない状況に置かれます。

担保権の実行と強制執行の違い

  • 債務名義の有無: 強制執行は、裁判所の判決など、債務名義が必要です。一方、担保権の実行は、担保設定契約に基づいて行うため、必ずしも債務名義は必要ありません。
  • 対象となる財産: 強制執行は、債務者の全ての財産を対象としますが、担保権の実行は、担保設定された特定の財産を対象とします。

担保権の実行と時効中断の注意点

  • 時効中断期間: 担保権の実行が終了するまで、時効は中断されます。
  • 複数の担保権: 複数の担保権が設定されている場合、それぞれの担保権の実行が、それぞれの時効中断事由となります。
  • 担保権の喪失: 担保権が消滅した場合、時効中断の効果も失われます。

第百四十八条 三 民事執行法(昭和五十四年法律第四号)第百九十五条に規定する担保権の実行としての競売の例による競売

民法第148条第3項と民事執行法第195条:担保権実行としての競売について

民法第148条第3項と時効中断

民法第148条第3項は、民事執行法第195条に規定する担保権の実行としての競売も、時効中断事由の一つであると定めています。つまり、担保権に基づいて競売手続きが開始されている間は、その債権の時効は進行しないということです。

民事執行法第195条と競売

民事執行法第195条は、留置権による競売民法・商法などの法律に基づく換価のための競売についても、担保権実行としての競売の例に倣って手続きを行うと規定しています。つまり、これらの競売も、民法第148条第3項の規定により、時効中断事由となるのです。

具体的な例と時効中断

例えば、ある人が不動産を担保に借金をした場合、その人が借金を返済できなくなったとき、債権者はその不動産を競売にかけることができます。この競売手続きが開始された時点から、債権の時効は中断されます。

なぜ時効が中断されるのか?

  • 債権回収の機会保障: 債権者は、競売によって債権回収の機会を確保することができます。
  • 権利行使の促進: 債務者は、競売手続き進行中に、債権者の権利行使に対して積極的に対応せざるを得ない状況に置かれます。
四 民事執行法第百九十六条に規定する財産開示手続又は同法第二百四条に規定する第三者からの情報取得手続

民法第148条第4項と民事執行法第196条・第204条:財産開示手続と時効中断

民法第148条第4項と時効中断

民法第148条第4項は、民事執行法第196条に規定する財産開示手続や同法第204条に規定する第三者からの情報取得手続も、時効中断事由の一つであると定めています。つまり、これらの手続が開始されている間は、その債権の時効は進行しないということです。

民事執行法第196条と財産開示手続

民事執行法第196条は、債務者の財産に関する情報を得るために、債務者に対して財産状況を開示させる手続を規定しています。債権者は、この手続を通じて債務者の財産を特定し、最終的に強制執行へと繋げることができます。

民事執行法第204条と第三者からの情報取得手続

民事執行法第204条は、債務者の財産に関する情報が第三者に属している場合に、裁判所がその第三者に対して情報提供を命じる手続を規定しています。この手続は、債務者が財産を隠匿している場合などに有効な手段となります。

なぜ時効が中断されるのか?

  • 債権回収の機会保障: 債権者は、これらの手続を通じて債務者の財産を特定し、最終的に債権回収の機会を確保することができます。
  • 権利行使の促進: 債務者は、これらの手続を通じて、債権者の権利行使に対して積極的に対応せざるを得ない状況に置かれます。

2 前項の場合には、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。ただし、申立ての取下げ又は法律の規定に従わないことによる取消しによってその事由が終了した場合は、この限りでない。

民法第148条第2項の解説

時効の再開について

民法第148条第2項は、時効の中断事由が終了したときに、時効が新たにその進行を始めることを規定しています。

具体的にどのような状況で時効が再開されるのか、もう少し詳しく見ていきましょう。

時効中断事由の終了と時効の再開

  • 強制執行、担保権の実行、競売、財産開示手続などが終了した場合: これらの手続が完了し、債権回収の手続きが一段落すると、時効は再び走り始めます。
  • 時効中断事由が取り消された場合: 例えば、裁判所が強制執行の申立てを取り消した場合など、中断事由が消滅すると、時効は再開されます。

時効再開の例外

ただし、申立ての取下げや法律の規定に従わないことによる取消しによって中断事由が終了した場合には、時効は直ちに再開されません。この場合、その終了の時から6ヶ月を経過するまでは、時効は完成しないことになります。

なぜこの例外があるのでしょうか?

  • 債権者の権利保護: 債権者が善意で手続きを進めていた場合、その途中で手続きが取り消されたとしても、すぐに時効が再開されてしまうのは不公平であるという考えに基づいています。
  • 手続きの円滑化: 債権者が手続きを中断したり取り消したりすることを躊躇するのを防ぎ、手続きの円滑化を図るという目的もあります。

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