民法第百四十七条 (裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)

民法第百四十七条 (裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)

第百四十七条 次に掲げる事由がある場合には、その事由が終了する(確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合にあっては、その終了の時から六箇月を経過する)までの間は、時効は、完成しない。

条文の意味

民法第147条は、時効の進行を一時的に中断させ、権利を行使する猶予を与えるというものです。つまり、この条文に該当する事由が発生した場合、時効が完成するまでの期間が延長されるということです。

具体的にどのような場合に時効が中断されるのか?

  1. 裁判上の請求: 訴訟を提起した場合
  2. 支払督促: 支払督促の手続きを開始した場合
  3. 訴え提起前の和解・民事調停・家事調停: これらの手続きを開始した場合
  4. 破産手続参加・再生手続参加・更生手続参加: これらの手続に参加した場合

上記いずれかの事由が発生すると、その事由が終了するまで、時効は完成しません。

重要なポイント

  • 確定判決: 訴訟などが確定判決で終了した場合、その時点で時効は中断されなくなります。
  • 猶予期間: 確定判決が出ないまま手続きが終了した場合、その終了から6ヶ月間は時効が中断されます。
  • 目的: この条文の目的は、権利者が権利を行使する機会を確保し、権利の消滅を防ぐことにあります。

  • 債権の時効: AさんがBさんからお金を借りており、時効が迫っている状況で、BさんがAさんを訴えました。この場合、訴訟が提起されたことで時効が中断され、Bさんは、訴訟の結果に関わらず、一定期間は時効を援用される心配をすることなく、権利を行使することができます。

一 裁判上の請求

民法第147条1項1号「裁判上の請求」について

裁判上の請求による時効の中断

民法第147条1項1号は、裁判上の請求を行うことで、時効の進行が中断されることを規定しています。

時効の中断とは、一度進行していた時効の時計がリセットされ、再び最初から数え直されることを意味します。

裁判上の請求とは?

裁判上の請求とは、訴訟を提起することを指します。具体的には、裁判所に訴状を提出して、相手方に訴えをかける行為です。

裁判上の請求による時効中断の効果

裁判上の請求を行うと、以下の効果が生じます。

  • 時効の進行中断: 訴訟が係属している間は、時効は進行しません。
  • 訴訟の終了後:
    • 確定判決: 確定判決が出た場合は、時効は更新され、新たに10年間の時効期間が開始されます(民法第169条1項)。
    • 確定判決でない場合: 和解など、確定判決と同一の効力を持つものによって権利が確定した場合も、時効は更新されます。ただし、確定判決が出ないまま手続きが終了した場合には、その終了から6ヶ月間は時効が中断されます。

裁判上の請求をするメリット

  • 時効の完成を防ぐ: 時効が迫っている場合、裁判上の請求を行うことで、時効の完成を遅らせることができます。
  • 権利の行使: 裁判を通じて、自分の権利を行使することができます。

裁判上の請求をする際の注意点

  • 訴えの提起のタイミング: 時効が完成する前に訴えを提起する必要があります。
  • 訴状の作成: 訴状には、訴えの趣旨、理由などを具体的に記載する必要があります。
  • 訴訟費用: 訴訟には費用がかかります。
二 支払督促

民法第147条1項2号:支払督促による時効の中断

支払督促による時効中断とは?

民法第147条1項2号は、支払督促の手続きを開始することで、時効の進行が中断されることを規定しています。

支払督促とは、裁判所に対して、相手方に対して金銭の支払いを命じる決定を求める手続きのことです。訴訟に比べて簡便かつ迅速な手続きとして知られています。

支払督促による時効中断の効果

支払督促を行うと、裁判上の請求と同様の効果があり、以下の効果が生じます。

  • 時効の進行中断: 支払督促の手続きが係属している間は、時効は進行しません。
  • 支払督促の終了後:
    • 確定した場合: 支払督促が確定した場合、時効は更新され、新たに10年間の時効期間が開始されます(民法第169条1項)。
    • 確定しない場合: 支払督促が却下されたり、取り下げられたりした場合には、その時点で時効が中断されていた期間は、時効期間に算入されます。

支払督促をするメリット

  • 訴訟に比べて迅速かつ簡便: 訴訟に比べて手続きが簡便で、迅速に解決することができます。
  • 費用が比較的安価: 訴訟に比べて費用が安価です。
  • 時効の完成を防ぐ: 時効が迫っている場合、支払督促を行うことで、時効の完成を遅らせることができます。

支払督促をする際の注意点

  • 債権の種類: 支払督促は、金銭債権に限って行うことができます。
  • 債務者の特定: 債務者の氏名や住所を正確に特定する必要があります。
  • 督促異議の申立て: 債務者が支払督促に対して異議を申し立ててきた場合は、訴訟に移行する必要があります。

三 民事訴訟法第二百七十五条第一項の和解又は民事調停法(昭和二十六年法律第二百二十二号)若しくは家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)による調停

民法第147条1項3号:和解や調停による時効の中断

和解や調停とは?

民法第147条1項3号では、民事訴訟法第275条第1項の和解、または民事調停法家事事件手続法による調停の手続きを開始した場合にも、時効が中断されると定めています。

  • 和解: 訴訟中に当事者同士が話し合い、裁判官の同意を得て紛争を解決することです。
  • 調停: 裁判官などの第三者が仲介に入り、当事者同士の話し合いを促し、紛争を解決することです。

これらによる時効中断の効果

和解や調停の手続きを開始すると、裁判上の請求や支払督促と同様に、以下の効果が生じます。

  • 時効の進行中断: 和解や調停の手続きが係属している間は、時効は進行しません。
  • 手続きの終了後:
    • 和解成立や調停成立: 和解が成立したり、調停が成立したりした場合、時効は更新され、新たに10年間の時効期間が開始されます(民法第169条1項)。
    • 手続きが中断・中止された場合: 和解や調停の手続きが中断されたり、中止されたりした場合には、その時点で時効が中断されていた期間は、時効期間に算入されます。

和解や調停を選ぶメリット

  • 訴訟に比べて迅速かつ柔軟: 訴訟に比べて手続きが迅速で、当事者間の合意に基づいた柔軟な解決が可能です。
  • 費用が比較的安価: 訴訟に比べて費用が安価な場合があります。
  • 関係性の維持: 訴訟のように対立を激化させることなく、関係性を維持しながら解決することができます。

和解や調停を選ぶ際の注意点

  • 当事者の合意: 和解や調停は、当事者間の合意がなければ成立しません。
  • 専門家の利用: 法的な問題が複雑な場合は、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

四 破産手続参加、再生手続参加又は更生手続参加

民法第147条1項4号:破産手続等参加による時効の中断

破産手続等参加とは?

民法第147条1項4号は、破産手続参加、再生手続参加、または更生手続参加といった、債務者の財産状況を整理するための手続きに参加している間は、時効が進行しないことを定めています。

これらの手続きは、債務者が多額の債務を抱え、支払いが困難になった場合に、債権者と債務者の間の関係を整理し、債務者の再建を図るためのものです。

これらによる時効中断の効果

破産手続等に参加すると、裁判上の請求などと同じように、以下の効果が生じます。

  • 時効の進行中断: 手続きが係属している間は、時効は進行しません。
  • 手続の終了後:
    • 手続が終了した場合: 手続きが終了した場合、時効は更新され、新たに10年間の時効期間が開始されます(民法第169条1項)。
    • 手続が中止された場合: 手続きが中止された場合、その時点で時効が中断されていた期間は、時効期間に算入されます。

破産手続等に参加するメリット

  • 債務の免除: 破産手続などでは、一定の債務が免除される可能性があります。
  • 債権者との関係の整理: 債権者との関係を整理し、新たなスタートを切ることができます。

破産手続等に参加する際の注意点

  • 手続きの複雑さ: 破産手続などは、手続きが複雑で、専門的な知識が必要です。
  • 財産の喪失: 破産手続などでは、一部の財産を失う可能性があります。

2 前項の場合において、確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したときは、時効は、同項各号に掲げる事由が終了した時から新たにその進行を始める。

民法第147条第2項の解説:時効の更新

条文の意味

民法第147条第2項は、第1項で定められた時効中断事由が、確定判決確定判決と同一の効力を有するものによって終了した場合には、時効が新たにその進行を始めると規定しています。

具体的にどのような意味か?

  • 時効の更新: 確定判決などによって権利関係が確定すると、それまで中断されていた時効がリセットされ、再び最初から数え直されることを意味します。
  • 新たな時効期間: 時効が更新されると、新たに10年間(または他の法定の時効期間)の時効期間が開始されます。

なぜ時効が更新されるのか?

  • 権利関係の確定: 確定判決などによって権利関係が確定することで、権利義務関係が明確になります。
  • 権利行使の機会の保障: 権利者は、確定判決が出たことを契機に、改めて権利を行使する機会を得ることができます。

  • 債権回収のケース: AさんがBさんからお金を借りており、時効が迫っていたため、Aさんを訴えました。裁判の結果、Aさんの勝訴が確定したとします。この場合、確定判決が出た時点で、時効は更新され、新たに10年間の時効期間が開始されます。

まとめ

民法第147条第2項は、時効中断事由が終了した際に、時効が更新されるという重要な規定です。
この規定があるため、権利者は、時効が中断されていた期間を無駄にすることなく、権利を行使することができます。

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