民法第百三十七条 (期限の利益の喪失)

民法第百三十七条 (期限の利益の喪失)

第百三十七条 次に掲げる場合には、債務者は、期限の利益を主張することができない。

民法第137条は、期限の利益の喪失事由を定めています。期限の利益とは、債務者が、債務の履行期限まで、債務の履行を遅らせることができるという権利のことです。しかし、この条文に該当するような事由が生じた場合は、債務者は、この権利を行使できなくなります。

具体的事由

  1. 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき:

    • 債務者が支払不能の状態にあると判断された場合、債権者全員に対して公平に債務を弁済するために、破産手続きが開始されます。この場合、債務者は、個々の債権者に対して期限の利益を主張することができなくなります。
  2. 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき:

    • 債務者が、債権者のために提供した担保を故意または過失によって失わせたり、その価値を減らしたりした場合、債権者は担保によって債権を回収することが難しくなるため、債務者は期限の利益を主張できなくなります。
  3. 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき:

    • 債務者が、契約上、担保を提供する義務を負っているにもかかわらず、その義務を果たさない場合、債権者の債権回収の危険性が高まるため、債務者は期限の利益を主張できなくなります。

条文の趣旨

この条文の趣旨は、債権者の保護にあります。債務者が上記のような行為を行った場合、債権者の債権回収が困難になる可能性が高まるため、債権者の利益を守るために、債務者の期限の利益を制限する必要があるという考えに基づいています。

重要なポイント

  • 任意規定: この条文は、任意規定であるため、契約によって、この条文に定められている事由以外にも、期限の利益の喪失事由を追加することができます。
  • 債権者の請求: 債務者が上記のような事由に該当した場合、債権者は、直ちに債務の全額の一括弁済を請求することができます。
  • その他の事由: 判例や学説によっては、上記以外にも、期限の利益を喪失させるべき事由として認められる場合があります。

民法第137条1項「債務者が破産手続開始の決定を受けたとき」

この条文の意味

この条文は、債務者が破産手続開始の決定を受けた場合、債権者は、債務者が定めた履行期限を待たずに、直ちに債務の全額の一括弁済を請求できることを意味しています。

なぜ期限の利益が失われるのか?

  1. 債務の履行不能の可能性が高い:
    • 破産手続き開始の決定は、債務者が支払不能の状態にあると判断されたことを意味します。そのため、債務者が約束通りに債務を履行できる見込みが極めて低いと判断されます。
  2. 債権者間の公平性の確保:
    • 複数の債権者がいる場合、債務者が期限の利益を主張できる状態が続くと、債権者間の間に不公平が生じる可能性があります。破産手続きでは、債権者全員に対して公平に債務が弁済されることを目的としているため、期限の利益を認めることは、この目的に反します。

具体例

  • 住宅ローンの場合:
    • 住宅ローンの借主が破産手続き開始の決定を受けた場合、債権者である金融機関は、残りのローンを一括で返済を求めることができます。
  • 売掛金の回収の場合:
    • 商品を納品した企業が、代金の支払いを約束していた企業が破産手続き開始の決定を受けた場合、債権者は、代金の全額を直ちに支払うよう請求することができます。

民法第137条2項「債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき」

この条文の意味

この条文は、債務者が、債権者のために提供した担保を故意または過失によって滅失させたり、損傷させたり、あるいはその価値を減少させたりした場合、債務者は、債務の履行期限を待たずに、直ちに債務の全額の一括弁済を請求される可能性があることを意味しています。

なぜ期限の利益が失われるのか?

  1. 担保の価値低下による債権回収の困難化:
    • 担保は、債務者が債務を履行しない場合に、債権者が代わりにその価値にあたるものを取得できる権利です。しかし、担保が滅失したり、損傷したりすると、その価値が低下し、債権者が債権を回収することが困難になります。
  2. 債務者の悪意または過失の評価:
    • 債務者が故意または過失によって担保を滅失させたり、損傷させたりした場合、債務者の債務履行の意思が疑わしくなり、債権者の不安が増大します。

具体例

  • 不動産を担保とした融資の場合:
    • 借主が、不動産を故意に火災を起こして焼失させた場合、金融機関は、残りのローンを一括で返済を求めることができます。
  • 動産を担保とした融資の場合:
    • 借主が、自動車を事故を起こして廃車にした場合、金融機関は、残りのローンを一括で返済を求めることができます。

民法第137条3項「債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき」

この条文の意味

この条文は、債務者が、契約などで担保を提供する義務を負っているにも関わらず、その義務を果たさない場合、債務者は、債務の履行期限を待たずに、直ちに債務の全額の一括弁済を請求される可能性があることを意味します。

なぜ期限の利益が失われるのか?

  1. 債権者の不安増大:
    • 担保は、債務者が債務を履行しない場合に、債権者が代わりにその価値にあたるものを取得できる権利です。債務者が担保を提供しないということは、債権者が債権を回収できる可能性が低下することを意味するため、債権者の不安が増大します。
  2. 債務履行の意思の疑念:
    • 債務者が担保を提供する義務を負いながら、それを怠るということは、債務者が債務を履行する意思がないと解釈される可能性があります。

具体例

  • 不動産売買契約の場合:
    • 不動産売買契約で、売主が買主に抵当権を設定する義務を負っている場合、売主がその義務を果たさない場合、買主は、売買代金の残額を一括で支払うよう売主に請求することができます。
  • 工事請負契約の場合:
    • 工事請負契約で、請負業者が発注者に工事保証金を供する義務を負っている場合、請負業者がその義務を果たさない場合、発注者は、工事代金の残額を一括で支払うよう請負業者に請求することができます。

まとめ

この条文は、債務者が契約上の義務である担保提供を怠った場合、債権者の損害を防止するために、債務者の期限の利益を制限するものです。
債務者は、契約上の義務をきちんと履行する必要があります。

続きを見る