民法第百二十五条 (法定追認)

民法第百二十五条 (法定追認)

第百二十五条 追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。

条文の意味

民法第125条は、ある行為が取り消せるにも関わらず、本人がその行為について特に何も言わずに時間が経過した場合、あたかもその行為を「追認した」とみなすという規定です。

条文のポイント

  • 追認の推定: 取引相手など、追認権を持つ人が、取り消せる行為について追認できる状況になったにも関わらず、特に異議を唱えなかった場合は、その行為を黙認したものとみなし、追認したものとみなします。
  • 異議の留保: ただし、この推定は、追認権者が明確に異議を表明した場合には適用されません。異議を表明すれば、追認したものとはみなされず、その後の判断が可能になります。

条文の意図

この条文の意図は、取引の安定を図ることです。取り消せる行為があった場合、いつまでもその有効性が宙ぶらりんの状態では、取引相手は安心して取引を継続することができません。そのため、一定の期間が経過し、追認権者が特に異議を唱えなければ、その行為は有効とみなすことで、取引の安定性を確保しようとしています。

具体的なケース

  • 未成年者の契約: 未成年者が契約した場合、親などが追認しなければその契約は取り消すことができます。しかし、親がその契約について特に何も言わずに時間が経過した場合、黙認したものとみなし、追認したものとみなされます。
  • 無権代理人による契約: 代理権のない者が契約した場合、本人が追認しなければその契約は取り消すことができます。しかし、本人がその契約について特に何も言わずに時間が経過した場合、黙認したものとみなし、追認したものとみなされます。

注意点

  • 追認できる時: 追認できる時とは、追認権者が取り消せる行為について知り、かつ、追認をすることができる状態にある時を指します。
  • 異議の明確化: 異議を表明する場合には、明確に意思表示をする必要があります。黙っていても異議とみなされることはありません。
  • 時効: 取り消し権には時効があり、一定期間内に取り消しの訴えを起こさなければ、その権利を失います。
一 全部又は一部の履行

民法第125条第一号「全部又は一部の履行」について

民法第125条とは

民法第125条は、法定追認に関する規定です。法定追認とは、法律によって、本来は取り消すことができる行為(未成年者の契約など)について、一定の事実があると、あたかも本人が追認したとみなすというルールのことです。

第1号「全部又は一部の履行」の意味

この条文の第一号は、「全部又は一部の履行」が、その法定追認の事由の一つとして挙げられています。つまり、取り消すことができる行為について、当事者の一方が契約に基づいて、その全部または一部の履行を行った場合、法律上、その行為を追認したものとみなすということです。

具体的な例

  • 未成年者の契約: 未成年者がスマートフォンを購入し、その後、そのスマートフォンを使い続けたり、料金を支払ったりした場合、契約を履行したとみなされ、契約を取り消すことができなくなります。
  • 無権代理人の契約: 代理権のない者が契約を結んだ場合、本人がその契約に基づいて代金を支払ったり、相手方から提供された物を受け取ったりした場合、その契約を追認したものとみなされます。

なぜ「履行」が追認とみなされるのか

  • 契約の安定性: 契約の安定性を図るために、当事者が契約を履行したという事実をもって、その契約を有効とみなすという考え方です。
  • 当事者の意思表示: 履行という行為は、その契約を有効と認める意思表示と解されます。

注意点

  • 異議の表明: 取り消すことができる権利を持つ者は、履行に対して異議を表明することで、追認を拒否することができます。
  • 時効: 取り消し権には時効があり、一定期間内に取り消しの訴えを起こさなければ、その権利を失います。
  • 個別事案の判断: 履行による追認の成立は、個々のケースにおける事実関係や当事者の意思表示など、様々な要素を総合的に判断する必要があります。

二 履行の請求

民法第125条第二号「履行の請求」について

第二号「履行の請求」の意味

この条文の第二号は、「履行の請求」が、その法定追認の事由の一つとして挙げられています。つまり、取り消すことができる行為について、当事者の一方が相手方に対して契約の履行を請求した場合、法律上、その行為を追認したものとみなすということです。

具体的な例

  • 未成年者が購入した商品の引き渡し請求: 未成年者が購入した商品について、成人後、その商品の引き渡しを売主に請求した場合、契約を履行してもらうことを求めたことになり、契約を追認したものとみなされます。
  • 無権代理人が契約した不動産の売買について、本人が代金の支払いを請求された場合: 本人が代金の支払いを請求されたことを黙認した場合、その契約を追認したものとみなされる可能性があります。

なぜ「履行の請求」が追認とみなされるのか

  • 契約の有効性の確認: 履行を請求するという行為は、その契約が有効であることを前提とした行為であるため、契約を有効と認める意思表示と解されます。
  • 契約関係の継続: 履行を請求することで、契約関係を継続させようとする意思表示とみなされます。

注意点

  • 異議の表明: 取り消すことができる権利を持つ者は、履行の請求に対して異議を表明することで、追認を拒否することができます。
  • 時効: 取り消し権には時効があり、一定期間内に取り消しの訴えを起こさなければ、その権利を失います。
  • 個別事案の判断: 履行の請求による追認の成立は、個々のケースにおける事実関係や当事者の意思表示など、様々な要素を総合的に判断する必要があります。

三 更改

民法第125条全体と「更改」の関係

民法第125条は、取り消すことができる行為(例えば、未成年者の契約など)について、追認がなくても、一定の事実があると追認したものとみなすという規定です。この中で、「三 更改」は、その一定の事実の一つとして挙げられています。

つまり、取り消すことができる行為について、当事者の一方が契約内容を変更するような行為(更改)を行った場合、たとえ本人がその行為を明示的に追認していなくても、法律上、追認したものとみなされる可能性があるということです。

「更改」による追認の成立

  • 取り消せる行為の存在: まず、その行為が未成年者の契約など、原則として取り消すことができる行為である必要があります。
  • 更改の実行: 当事者の一方が、その契約内容を変更するような行為(更改)を行います。
  • 異議の不存在: 取り消すことができる権利を持つ者が、その更改に対して異議を唱えない場合。

上記3つの要件が揃うと、法律上、更改を行った時点で、その行為を追認したものとみなされます。

更改による追認の意義

  • 取引の安定: 取り消せる行為が長期間放置されることを防ぎ、取引の安定を図ります。
  • 法律関係の確定: 契約の有効性・無効性が不明確な状態を解消し、法律関係を確定させます。

具体的な例

  • 未成年者が契約した携帯電話のプラン: 未成年者が契約した携帯電話のプランについて、親が料金プランを変更した場合、親は黙認したことで、その契約を追認したものとみなされる可能性があります。
  • 無権代理人が契約した不動産売買: 無権代理人が契約した不動産売買について、本人がその契約に基づいて代金を支払ったり、不動産を譲渡したりした場合、本人はその契約を追認したものとみなされる可能性があります。

注意点

  • 異議の表明: 取り消すことができる権利を持つ者は、更改に対して異議を表明することで、追認を拒否することができます。
  • 時効: 取り消し権には時効があり、一定期間内に取り消しの訴えを起こさなければ、その権利を失います。
  • 個別事案の判断: 更改による追認の成立は、個々のケースにおける事実関係や当事者の意思表示など、様々な要素を総合的に判断する必要があります。
四 担保の供与

民法第125条第4項 担保の供与について

担保の供与とは?

民法第125条第4項は、取り消すことができる行為(例えば、未成年者の契約など)について、担保の供与を行った場合、あたかもその行為を追認したものとみなすという規定です。

担保の供与とは、債務者が債務の履行を確実にするために、自分の財産を債権者に差し出すことを指します。例えば、不動産を抵当に提供したり、動産を質に入れるなどが挙げられます。

担保の供与が追認とみなされる理由

なぜ、担保の供与が追認とみなされるのでしょうか?それは、担保の供与という行為自体が、その契約を有効なものと認める意思表示とみなされるからです。

具体的な例

  • 未成年者が購入した車のローン: 未成年者が購入した車のローンについて、その車がローン返済の担保になっている場合、未成年者が成人後もその車を使い続けたり、ローンの支払いを続けている場合は、その契約を追認したものとみなされる可能性があります。
  • 無権代理人が契約した不動産売買: 無権代理人が契約した不動産売買について、本人がその不動産を担保に提供した場合、本人はその契約を追認したものとみなされる可能性があります。

担保の供与と追認の注意点

  • 異議の表明: 取り消すことができる権利を持つ者は、担保の供与に対して異議を表明することで、追認を拒否することができます。
  • 時効: 取り消し権には時効があり、一定期間内に取り消しの訴えを起こさなければ、その権利を失います。
  • 個別事案の判断: 担保の供与による追認の成立は、個々のケースにおける事実関係や当事者の意思表示など、様々な要素を総合的に判断する必要があります。
五 取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡

第五号「取り消すことができる行為によって取得した権利の全部又は一部の譲渡」の意味

この条文の第五号は、「取り消すことができる行為によって取得した権利」を「全部又は一部」譲渡した場合、その行為を追認したものとみなす、と定めています。

もう少し詳しく説明すると、例えば、未成年者が契約で何かを得た権利(所有権など)を、第三者に譲渡した場合、その行為によって、当初の契約を有効とみなす、ということです。

具体的な例

  • 未成年者が購入したゲーム機: 未成年者が購入したゲーム機を、成人後に友人に譲渡した場合、ゲーム機の所有権を譲渡したことで、当初の購入契約を追認したものとみなされる可能性があります。
  • 無権代理人が契約で得た不動産の権利: 無権代理人が契約で得た不動産の権利を、本人が第三者に売却した場合、本人はその契約を追認したものとみなされる可能性があります。

なぜ「権利の譲渡」が追認とみなされるのか

  • 権利の処分: 取得した権利を処分するという行為は、その権利の存在を前提とした行為であり、当初の契約を有効と認める意思表示と解されます。
  • 権利の帰属の変更: 権利の帰属が変更されることで、当初の契約関係が継続されることになります。

注意点

  • 異議の表明: 取り消すことができる権利を持つ者は、権利の譲渡に対して異議を表明することで、追認を拒否することができます。
  • 時効: 取り消し権には時効があり、一定期間内に取り消しの訴えを起こさなければ、その権利を失います。
  • 個別事案の判断: 権利の譲渡による追認の成立は、個々のケースにおける事実関係や当事者の意思表示など、様々な要素を総合的に判断する必要があります。
六 強制執行

第六号「強制執行」の意味

この条文の第六号は、「強制執行」が、その法定追認の事由の一つとして挙げられています。つまり、取り消すことができる行為に基づいて、相手方に対して強制執行を認める決定があった場合、法律上、その行為を追認したものとみなすということです。

強制執行とは?

強制執行とは、裁判所の判決などに基づき、債務者が債務を履行しない場合に、裁判所が債務者の財産を差し押さえたり、売却したりして、債権者に代金を支払うことを強制する手続きのことです。

具体的な例

  • 未成年者が購入した商品の代金支払いを命じる判決: 未成年者が購入した商品の代金支払いを命じる判決が出され、その判決に基づいて強制執行が行われた場合、未成年者はその契約を追認したものとみなされます。
  • 無権代理人が契約した不動産売買について、買主が明け渡しを請求する判決: 無権代理人が契約した不動産売買について、買主が明け渡しを請求する判決が出され、その判決に基づいて強制執行が行われた場合、本人はその契約を追認したものとみなされる可能性があります。

なぜ「強制執行」が追認とみなされるのか

  • 裁判所の判断: 裁判所が強制執行を認めたということは、その契約が有効であると判断したことを意味します。
  • 債務の履行: 強制執行は、債務の履行を強制する手続きであり、債務者がその契約に基づく義務を負うことを認めたものと解されます。

注意点

  • 異議の表明: 取り消すことができる権利を持つ者は、強制執行に対して異議を表明することで、追認を拒否することができます。
  • 時効: 取り消し権には時効があり、一定期間内に取り消しの訴えを起こさなければ、その権利を失います。
  • 個別事案の判断: 強制執行による追認の成立は、個々のケースにおける事実関係や当事者の意思表示など、様々な要素を総合的に判断する必要があります。

まとめ

民法第125条第六号は、取り消せる行為について、強制執行がなされた場合、その行為自体が追認に当たる可能性があることを規定しています。
この条文は、取引の安定を図る一方で、当事者の権利を保護するための重要な規定です。

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