民法第二百五十二条の二 (共有物の管理者)
民法第二百五十二条の二 (共有物の管理者)
第二百五十二条の二 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為をすることができる。ただし、共有者の全員の同意を得なければ、共有物に変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。次項において同じ。)を加えることができない。
民法第252条の2は、共有物の管理者という役割を定め、その権限と制限について規定しています。
共有物の管理者とは、共有者の中から選ばれたり、裁判所によって選任されたりして、共有物の管理を代表して行う人を指します。
この管理者は、共有物の日常的な管理や、共有者間の紛争の調整などを行います。
条文のポイントは次の2点です。
- 管理行為: 共有物の管理者は、共有物の管理に関する行為を行うことができます。これは、賃貸借契約の締結、修繕工事の発注、共有者の集会への招集など、様々な行為を含みます。
- 変更行為の制限: ただし、共有物に大きな変更を加える場合は、全ての共有者の同意が必要となります。これは、共有物の性格を根本的に変えるような行為を、一部の共有者の独断で決めることを防ぐためのものです。
より詳しく解説
- 管理行為の例:
- 共有建物の修繕工事の発注
- 共有地の清掃
- 共有財産の保険加入
- 共有者の集会への招集
- 変更行為の例:
- 共有建物の増築
- 共有地の区画変更
- 共有財産の売却
- 同意が必要な変更:
- 共有物の形状や効用を著しく変更する行為
- 共有物の目的を根本的に変更する行為
なぜ共有物の管理者が必要なのか?
- 効率的な管理: 多数の共有者がいる場合、全員で意思決定を行うのは非効率です。管理者を置くことで、迅速な意思決定が可能になります。
- 紛争の予防: 共有者間の意見が対立した場合、管理者が中立的な立場から調整を行うことで、紛争を予防できます。
注意点
- 管理者の責任: 管理者は、共有物の管理を適切に行う義務があり、その怠慢によって損害が発生した場合、責任を問われることがあります。
- 共有者の権利: 共有者は、いつでも管理者を解任したり、別の管理者を選任したりすることができます。
2 共有物の管理者が共有者を知ることができず、又はその所在を知ることができないときは、裁判所は、共有物の管理者の請求により、当該共有者以外の共有者の同意を得て共有物に変更を加えることができる旨の裁判をすることができる。
民法第252条の2第2項は、共有者が所在不明の場合に、共有物の管理者が裁判所に申し立てを行い、裁判所の許可を得ることで、他の共有者の同意のみで共有物に変更を加えることができるという規定です。
具体的にどのような場合にこの条項が適用されるか
- 共有者の所在が不明な場合: 連絡が取れない、行方が分からないなどの場合。
- 共有者の死亡が確認できない場合:
- その他の理由で共有者の同意を得られない場合:
この条項の目的
- 共有物の有効活用: 共有者が所在不明の場合、共有物の利用が滞ってしまうことがあります。この条項は、このような状況を解消し、共有物を有効に活用することを目的としています。
- 共有関係の円滑化: 共有者全員の同意を得るのが困難な場合でも、裁判所の判断によって、共有物に関する決定を下せるようにすることで、共有関係を円滑化することを目的としています。
裁判所が許可を出す際の判断基準
裁判所は、以下の点を考慮して、許可を出すかどうかを判断します。
- 共有者の所在を明らかにするための努力: 管理者が、共有者の所在を明らかにするために、どのような努力をしたか。
- 変更の内容: 共有物にどのような変更を加えるのか。その変更が、他の共有者の権利を過度に侵害しないか。
- 変更の必要性: その変更を行うことが、共有物の有効利用や保全のために必要不可欠か。
注意点
- 裁判所の判断: 裁判所の許可を得るためには、法的な手続きが必要であり、時間がかかる場合があります。
- 他の共有者の権利: 他の共有者の権利を過度に侵害するような変更は、裁判所が許可を出さない可能性があります。
3 共有物の管理者は、共有者が共有物の管理に関する事項を決した場合には、これに従ってその職務を行わなければならない。
民法第252条の2第3項は、共有物の管理者が、共有者全員の合意によって決まった共有物の管理に関する事項に従って、その職務を行わなければならないと定めています。
具体的に言うと、共有者全員が話し合って、共有物の管理方法や利用方法などを決めた場合、管理者はその決定に従って行動しなければならないということです。
なぜこのような規定があるのか?
- 共有者の意思尊重: 共有物は、全ての共有者のものです。そのため、共有物の管理方法については、原則として、全ての共有者の意見を尊重する必要があります。
- 管理者の役割: 管理者は、共有者の代表者であり、共有者の意思決定に基づいて、共有物を管理する役割を担っています。
具体的な例
- 共有建物の修繕: 共有者全員で話し合い、建物の修繕方法や業者を決めた場合、管理者はその決定に従って、修繕工事を発注する。
- 共有地の利用: 共有者全員で話し合い、共有地を農地に利用することを決めた場合、管理者はその決定に従って、農地として利用するための手続きを行う。
注意点
- 共有者の合意: 共有者の合意とは、原則として、全ての共有者の同意を指します。ただし、法律に別段の定めがある場合や、共有者間の合意で異なる取り決めをしている場合は、この限りではありません。
- 管理者の責任: 管理者は、共有者の決定に従って職務を行った場合でも、その決定が違法であったり、共有者の利益を害するものであったりする場合には、責任を問われることがあります
4 前項の規定に違反して行った共有物の管理者の行為は、共有者に対してその効力を生じない。ただし、共有者は、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
民法第252条の2第4項は、共有物の管理者が、共有者の決定に反する行為を行った場合、その行為は原則として共有者に対して効力を生じないと定めています。
これは、管理者が勝手に決定を無視して行動しても、その行為が共有者に対して有効にならないということです。
ただし、善意の第三者に対しては、共有者はこのことを理由に対抗することができません。
つまり、管理者の行為が法的に有効でないことを知らなかった第三者に対しては、共有者はその行為を無効にすることはできないということです。
なぜこのような規定があるのか?
- 共有者の保護: 共有者の決定を尊重し、管理者が勝手にその決定を無視することを防ぐためです。
- 第三者の保護: 善意の第三者を保護し、取引の安全性を確保するためです。
具体的な例
- 共有建物の賃貸: 共有者全員で建物を売却することを決めたのに、管理者が勝手に第三者に賃貸契約を結んだ場合、この賃貸契約は原則として、共有者に対しては効力を生じません。
- 共有地の売却: 共有者全員で共有地をそのまま保持することを決めたのに、管理者が勝手に第三者に売却した場合、この売却契約は原則として、共有者に対しては効力を生じません。
注意点
- 善意の第三者: 善意の第三者とは、管理者の行為が共有者の決定に反していることを知らず、かつ、通常注意を払っていれば知るべき理由がなかった者を指します。
- 対抗力: 共有者は、善意の第三者に対しては、管理者の行為が有効であることを認めざるを得ない場合があります。
まとめ
民法第252条の2第4項は、共有物の管理者が、共有者の決定に反する行為を行った場合の法的効果について定めています。
共有者は、原則として、管理者の行為を無効にすることができますが、善意の第三者に対しては、その効力を認める必要があります。