民法第百五十一条 (協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)

民法第百五十一条 (協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)

第百五十一条 権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、次に掲げる時のいずれか早い時までの間は、時効は、完成しない。

条文の意味

この条文は、ある権利に関する話し合い(協議)を行うという合意が書面で交わされた場合、時効が完成するまでの期間が延びるという内容です。

もう少し具体的に説明すると、

  • 権利についての協議: 例えば、土地の所有権やお金の返還請求権など、何かしらの権利に関する話し合いを指します。
  • 書面での合意: 口約束ではなく、書面で協議を行うということが明記されている必要があります。
  • 時効の完成: 一般的に、ある権利を行使できる期間には制限があり、その期間が過ぎると権利を行使できなくなることを時効といいます。この条文は、その時効が完成するまでの期間を延ばすことができるというものです。

なぜ時効が延びるのか?

この条文の目的は、当事者間の話し合いを円満に解決するための機会を保障することにあります。もし、時効がすぐに完成してしまうと、話し合いがまとまる前に権利を行使できなくなってしまい、紛争が長期化してしまう可能性があります。

いつまで時効が完成しないのか?

条文では、以下のいずれかの時が来るまで、時効が完成しないことが定められています。

  • 協議が終了したとき: 話し合いがまとまり、結論が出たときです。
  • 協議が中断されたとき: 話し合いが中断され、再開の見込みがなくなったときです。

つまり、 書面で協議を行うという合意をした限り、話し合いが続いている間は、時効が完成しないということです。

具体的な事例

例えば、AさんがBさんからお金を借りており、返済期限が過ぎているとします。
この場合、BさんはAさんに返済を求める権利を持っていますが、時効によってその権利を行使できなくなる可能性があります。
しかし、AさんとBさんが書面で「返済について話し合う」という合意を交わした場合、話し合いが続く限り、Bさんの権利は消滅しません。

一 その合意があった時から一年を経過した時

条文のポイント

「第百五十一条 一 その合意があった時から一年を経過した時」は、民法の規定であり、時効の援用に関する重要な条文です。

時効とは、ある権利を行使できる期間が法律で定められており、その期間が経過すると、その権利を行使できなくなるという制度です。例えば、お金を貸した人が、一定期間お金を返してもらえない場合、裁判を起こして返してもらえる権利(債権)が消滅してしまうことがあります。

この条文は、その一般論からの例外を規定しており、権利に関する協議が行われている間は、時効が進行しない、つまり、権利が消滅するまでの期間が延長されるという内容です。

条文の具体例

  • 借金の返済: AさんがBさんからお金を借りており、返済期限が過ぎているとします。この場合、BさんはAさんを訴えてお金を返してもらうことができます。しかし、AさんとBさんが「返済について話し合う」という合意を結んだ場合、この合意から1年間は、Bさんの権利は消滅しません。
  • 土地の境界線: AさんとBさんが土地の境界線について争っているとします。両者が「境界線について話し合う」という合意を結んだ場合、この合意から1年間は、どちらかの権利が消滅することはありません。

条文の解釈上の注意点

  • 合意の形式: この条文でいう「合意」は、必ずしも正式な契約書である必要はなく、書面化されたものであれば有効とされます。
  • 協議の内容: 協議の内容は、権利に関するものであれば特に制限はありません。
  • 1年の起算点: 1年の起算点は、通常、合意書の日付となりますが、場合によっては、協議が実際に開始された日となることもあります。
  • 中断と再開: 協議が中断された場合、1年のカウントが一時停止されます。再開された場合は、中断された時点から再び1年のカウントが開始されます。

二 その合意において当事者が協議を行う期間(一年に満たないものに限る。)を定めたときは、その期間を経過した時

第百五十一条第二項は、第一項の規定を補足するもので、権利に関する協議を行う期間が合意書で具体的に定められている場合、その期間が経過した時点で時効が進行し始めるという内容です。

条文の具体例

  • 借金の返済: AさんとBさんが、「3ヶ月以内に返済について協議する」という合意書を作成した場合、3ヶ月が経過しても協議が行われなければ、Bさんの権利は消滅し始める可能性があります。
  • 土地の境界線: AさんとBさんが、「半年以内に境界線について話し合う」という合意書を作成した場合、半年が経過しても協議が行われなければ、どちらかの権利が消滅し始める可能性があります。

条文の解釈上の注意点

  • 期間の定め: 合意書で定める期間は、1年未満であることが条件です。1年を超える場合は、第一項の規定が適用されます。
  • 期間の開始点: 期間の開始点は、通常、合意書の日付となりますが、場合によっては、協議が実際に開始された日となることもあります。
  • 期間の厳守: 合意書で定められた期間は厳守されなければなりません。期間内に協議が終了しない場合、時効が進行する可能性が高くなります。

第一項との関係

第一項は、協議が行われている間は、原則として時効が中断されるという規定です。第二項は、この原則に例外を規定しており、合意書で期間が定められている場合は、その期間が経過すると時効が進行し始めるというものです。

三 当事者の一方から相手方に対して協議の続行を拒絶する旨の通知が書面でされたときは、その通知の時から六箇月を経過した時

条文のポイント

第百五十一条第三項は、権利に関する協議が当事者の一方によって拒絶された場合、時効が再開される時期を定めた条文です。

条文の意味

この条文は、協議が一方的に打ち切られた場合、その日から6ヶ月が経過すると、時効が再開されることを意味します。つまり、権利を行使できる期間が再びカウントされ始めるということです。

条文の具体例

  • 借金の返済: AさんとBさんが借金の返済について協議していたところ、Aさんが「もうこれ以上話し合いたくない」とBさんに書面で通知した場合、この通知から6ヶ月が経過すると、Bさんの権利を行使できる期間が再び走り始めます。
  • 土地の境界線: AさんとBさんが土地の境界線について協議していたところ、Bさんが「協議をやめる」とAさんに書面で通知した場合、この通知から6ヶ月が経過すると、Aさんの権利を行使できる期間が再び走り始めます。

条文の解釈上の注意点

  • 通知の形式: 通知は、書面で行う必要があります。
  • 協議の拒絶: 通知の内容は、協議の続行を拒絶する意思が明確に示されている必要があります。
  • 6ヶ月の期間: 6ヶ月の期間は、通知の日から起算されます。
  • 他の法規との関係: この条文は、民法の一部分であり、他の法規との関係で解釈される場合があります。

第一項・第二項との関係

  • 第一項: 協議が行われている間は、時効が中断されるという規定です。
  • 第二項: 合意書で期間が定められている場合は、その期間が経過すると時効が進行し始めるという規定です。
  • 第三項: 一方が協議を拒絶した場合、時効が再開されるという規定です。

2 前項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた再度の同項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有する。ただし、その効力は、時効の完成が猶予されなかったとすれば時効が完成すべき時から通じて五年を超えることができない。

条文の意味

第百五十一条第二項は、一度協議を行う旨の合意をして時効が猶予されている期間中に、再度同じような合意をした場合、その合意によっても時効が猶予されることを定めています。
ただし、この猶予期間は、時効が元々完成するはずだった日から5年を超えることはできないという制限があります。

具体的な例

  • 借金の返済: AさんとBさんが借金の返済について協議を行う旨の合意をし、1年以内に協議を行うこととしていました。しかし、1年以内に協議がまとまらず、再度「さらに半年以内に協議を行う」という合意をした場合、この新しい合意によっても、Bさんの権利を行使できる期間が半年延長されます。ただし、最初の合意から合計5年を超えて時効が猶予されることはありません。

この条文の目的

  • 協議の促進: 当事者間で積極的に協議を促し、紛争の解決を図ることを目的としています。
  • 時効の乱用防止: 時効を無制限に延長することを防ぎ、権利関係を安定させることを目的としています。

注意点

  • 5年の制限: 時効が猶予される期間は、あくまで5年が上限です。
  • 繰り返し合意: 原則として、何度でも協議を行う旨の合意を繰り返すことができますが、5年の制限を超えることはできません。
  • 他の法規との関係: この条文は、民法の一部分であり、他の法規との関係で解釈される場合があります。

3 催告によって時効の完成が猶予されている間にされた第一項の合意は、同項の規定による時効の完成猶予の効力を有しない。同項の規定により時効の完成が猶予されている間にされた催告についても、同様とする。

条文の意味

この条文は、時効の完成がすでに猶予されている状態(例えば、催告によって)に、新たに協議を行う旨の合意を結んだり、再度催告を行ったりしても、時効の猶予期間がさらに延長されないことを定めています。

もう少し具体的に説明すると、

  • 時効の猶予状態: 既に催告などによって、時効が完成するまでの期間が延長されている状態を指します。
  • 協議の合意: このような状態において、新たに「協議を行う」という合意をしても、時効の猶予期間はこれ以上伸びないということです。
  • 再度の催告: 同様に、既に催告を行っている状態において、再度催告を行っても、時効の猶予期間がさらに伸びることはありません。

この条文の目的

この条文の目的は、時効の猶予を乱用することを防ぎ、権利関係を安定させることにあります。もし、この条文がなければ、一度時効が猶予されると、何度も協議の合意や催告を繰り返すことで、事実上、時効が永遠に完成しないという事態になりかねません。

条文の解釈上の注意点

  • 時効の猶予方法: この条文は、催告によって時効が猶予されている場合を例に挙げていますが、他の方法(例えば、差止請求)によって時効が猶予されている場合も、同様の解釈がなされます。
  • 合意の内容: 協議を行う旨の合意の内容は問いません。
  • 催告の形式: 再度の催告の形式は問いません。
4 第一項の合意がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)によってされたときは、その合意は、書面によってされたものとみなして、前三項の規定を適用する。

条文の意味

この条文は、電子的な記録によって協議を行う旨の合意がされた場合、書面で合意したものとみなして、前項までの規定を適用するという内容です。

もう少し具体的に説明すると、

  • 電子記録: 電子メール、PDFファイル、Excelファイルなど、コンピュータで作成・保存されるあらゆる種類のデータのことを指します。
  • 書面とみなす: 電子記録で合意した場合でも、あたかも書面で合意したのと同じように扱われるということです。
  • 前三項の適用: すなわち、電子記録による合意も、書面による合意と同様に、時効の猶予に関する規定が適用されるということです。

この条文の目的

この条文の目的は、電子化が進む社会において、電子的な記録による合意の法的効力を明確にすることにあります。従来、書面による合意が一般的でしたが、近年では電子的なやり取りが主流になりつつあります。この条文によって、電子的な記録による合意も法的効力を持つことが明記され、契約の円滑化が図られます。

条文の解釈上の注意点

  • 電磁的記録の範囲: 電磁的記録の範囲は非常に広く、様々な種類のデータが含まれます。
  • 書面とみなす効果: 電子記録は、書面とみなされるため、証拠能力も書面と同様です。
  • 形式要件: 電子記録には、特に厳格な形式要件はありませんが、内容が明確で、相手方に伝わるように作成する必要があります。
5 前項の規定は、第一項第三号の通知について準用する。

条文の意味

この条文は、協議の拒絶通知についても、第四項と同様に、電子的な記録によって行われた場合は、書面で通知したものとみなして、第三項の規定を適用するという内容です。

もう少し具体的に説明すると、

  • 協議の拒絶通知: 一方が協議を拒絶する旨を相手方に伝える通知のことです。
  • 電子記録: 電子メール、PDFファイルなど、コンピュータで作成・保存されるあらゆる種類のデータのことを指します。
  • 第三項の適用: 第三項では、協議の拒絶通知が書面で行われた場合、その通知から6ヶ月が経過すると時効が再開されると定められています。この第五項は、電子的な記録による通知も、書面による通知と同様に扱われることを意味します。

この条文の目的

この条文の目的は、協議の拒絶通知についても、電子的なやり取りを認めることにより、法的手続の効率化を図ることです。現代社会において、書面によるやり取りよりも、電子メールなどによるやり取りが一般的になってきています。この条文によって、電子的な通知も法的効力を有することが明記され、契約の円滑化が図られます。

条文の解釈上の注意点

  • 通知の内容: 電子的な記録による通知の内容は、書面による通知と同様に、協議の拒絶の意思が明確に示されている必要があります。
  • 送達方法: 電子的な記録による通知は、相手方に確実に届くように送達する必要があります。
  • 証拠保全: 電子的な記録は、後から改ざんされる可能性があるため、証拠保全の観点から、適切な方法で保存しておく必要があります。

まとめ

この条文は、電子化が進む社会において、協議の拒絶通知についても電子的なやり取りを認めることで、法的手続を効率化することを目的としています。
電子的な記録による通知も、書面による通知と同様に法的効力を持つことが明記され、契約の円滑化に貢献しています。

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