民法第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる
民法第九十六条 詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる
民法第96条 詐欺又は強迫による意思表示の取消し
概要
民法第96条は、詐欺や強迫によってなされた意思表示は、その当事者が取り消すことができるという規定です。
これは、不当な手段によって契約が結ばれた場合、その契約を無効にすることができるという、いわば「クーリングオフ」のような制度と言えるでしょう。
詐欺とは
詐欺とは、相手を欺いて、錯誤に陥らせ、その結果、不当な利益を得ようとする行為です。
- 虚偽の事実の告知: 存在しない事実をあたかも真実であるかのように告げること。
- 重要な事実の隠蔽: 重要な事実を故意に隠すこと。
- その他欺罔的な行為: 巧妙な言動や作為によって相手を欺くこと。
強迫とは
強迫とは、暴行や脅迫によって相手を畏怖させ、その状態で意思表示をさせた場合を指します。
- 暴行: 物理的な力を行使したり、その恐れを与えること。
- 脅迫: 法律上または社会的に保護されるべき利益を害する旨を告げ、相手を威嚇すること。
取り消しの要件
- 詐欺または強迫があったこと: 相手方が詐欺または強迫によって意思表示をさせたことが必要です。
- 因果関係: 詐欺または強迫が、意思表示の原因となったことが必要です。つまり、詐欺や強迫がなければ、その意思表示をしなかったと認められる必要があります。
第三者の詐欺の場合
第96条2項では、相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合、相手方がその事実を知り、または知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができるとしています。
取消しの効果
意思表示が取り消されると、その意思表示は無効となり、契約は初めからなかったものとみなされます。
注意点
- 取消しの期間: 取消しには期間制限があり、民法126条で5年と定められています。
- 善意の第三者: 詐欺や強迫によって取得した物が、善意無過失の第三者の手に渡った場合は、原則として取り戻すことはできません。
民法第96条は、詐欺や強迫によって不当に契約を結ばされた場合、その契約を取り消すことができるという、消費者保護の観点からも重要な規定です。
もし、このような状況に陥った場合は、弁護士に相談することをお勧めします。
2 相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知り、又は知ることができたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
民法第96条第2項の解説
第三者による詐欺と意思表示の取消し
民法第96条第2項は、第三者が契約の相手方に対する意思表示について詐欺を行った場合、その意思表示を取り消すことができる条件について規定しています。
具体的にどのような場合に意思表示を取り消せるのか、詳しく解説していきます。
第三者詐欺とは
第三者詐欺とは、契約の当事者ではない第三者が、一方の当事者を欺いて契約を成立させようとする行為を指します。
例えば、不動産の売買契約で、売主の知り合いの不動産会社が、物件の価値を実際よりも高く見積もるなどして、買主を騙すといったケースが考えられます。
意思表示を取り消せる条件
第2項は、この第三者詐欺があった場合、相手方がその事実を知り、または知ることができたときに限り、意思表示を取り消すことができると定めています。
つまり、
- 相手方が、第三者の詐欺に気づいていた場合
- 少し注意していれば、第三者の詐欺に気づくことができた場合
に限り、意思表示を取り消すことができるということです。
なぜ、相手方の認識が重要なのか
- 善意無過失の第三者保護: 相手方が、第三者の詐欺について何も知らず、また、知るべき義務もなかった場合(善意無過失の第三者)は、その者を保護する必要があるからです。
- 取引の安定性: 相手方が善意で契約を結んだ場合、その契約を後から取り消されてしまうと、取引の安定性が損なわれてしまいます。
第三者詐欺があった場合でも、相手方がその事実を知っていたか、または知ることができたかが、意思表示を取り消せるかどうかの分岐点となります。
3 前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができない。
民法第96条第3項の解説
詐欺による意思表示の取消しと善意無過失の第三者
民法第96条第3項は、詐欺によってなされた意思表示を取り消す場合、その取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対しては主張できないと定めています。
具体的にどういうことか
- 詐欺による意思表示: 前述の通り、相手を欺いて契約を結ばせる行為によってなされた意思表示です。
- 取消し: 詐欺によってなされた意思表示は無効とすることができる、という権利です。
- 善意でかつ過失がない第三者: 契約の相手方から権利を取得した第三者で、その契約に問題があることを知らず、また、少し注意していれば知ることができたという状況にもなかった者を指します。
つまり、詐欺によって得たものを、善意でかつ過失なく取得した第三者から取り戻すことはできないということです。
なぜ、善意無過失の第三者を保護するのか
- 取引の安全性の確保: 善意で取引を行った第三者を保護し、取引の安定性を図るという目的があります。
- 物権変動の円滑化: 物件の所有権などの移転を円滑に行うために、善意無過失の第三者を保護する必要があるという考えに基づいています。
例
AさんがBさんを騙して、Cさんの車を安く買い取らせました。その後、Bさんはその車をDさんに売却しました。この場合、DさんがAの詐欺について何も知らず、また、知るべき義務もなかったとすれば、AはBに対して契約を取り消しても、Dさんから車を返還させることはできません。
まとめ
民法第96条第3項は、善意無過失の第三者を保護し、取引の安全性を確保するための重要な規定です。この規定があるため、詐欺によって得たものを、善意無過失の第三者に譲渡した場合には、そのものを取り戻すことは困難になります。