民法第九十三条 (心裡留保)

民法第九十三条 (心裡留保)

第九十三条 意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方がその意思表示が表意者の真意ではないことを知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする

民法第93条は、私たちの日常生活において非常に重要な条文の一つです。
この条文は、「心裡留保(しんりりゅうほ)」と呼ばれる概念を定めています。

心理留保とは?

心裡留保とは、ある者が、内心では別のことを考えているにも関わらず、外に向かっては異なる意思表示をすることを指します。例えば、「この商品、すごく気に入ったから買う!」と言いながら、内心では「高いから買いたくない」と思っているような場合です。

条文の意味

この条文は、基本的に心裡留保をしたとしても、その意思表示は有効であると定めています。つまり、たとえ本心と異なることを言っても、その言葉によって契約が成立してしまう可能性があるということです。

しかし、例外として、相手方がその心裡留保に気づいていた場合、または気づける状況にあった場合には、その意思表示は無効になるとされています。

なぜこのような規定があるのか?

この規定の目的は、契約の安定性を図ることです。もし、いつでも「内心ではそう思っていなかった」と主張できてしまうと、契約の信頼性が損なわれてしまいます。そのため、原則として、外に向かって行った意思表示は有効とされているのです。

心理留保に関する注意点

  • 契約の履行: 心理留保をしたとしても、契約が成立してしまえば、原則としてその契約を履行する義務が生じます。
  • 詐欺: 心理留保が、相手方を欺いて契約を結ばせることを目的とした場合、詐欺罪が成立する可能性があります。
  • 錯誤: 心理留保によって、相手方が重要な事実を誤解していた場合には、契約を取り消すことができる場合があります(錯誤に基づく契約の取消)。

民法第93条は、私たちの意思表示が、必ずしも内心の真意と一致するとは限らないという現実を踏まえた上で、契約の安定性を確保するための規定です。
契約を結ぶ際には、自分の意思表示が相手にどう伝わるのかを慎重に考え、誤解のないようにすることが大切です。

2 前項ただし書の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。

善意の第三者への対抗力がない理由

民法第93条第2項は、心裡留保によって無効となった意思表示が、善意の第三者に対しては主張できないと定めています。これは、取引の安全を図るためです。

具体的にどのような状況でこの条文が適用されるのか、例を挙げて説明します。

  • 例1: AさんがBさんに「この土地を100万円で売る」と伝えましたが、内心では売る気がありませんでした(心裡留保)。BさんはAの真意を知らずにこの土地を購入しました。その後、CさんがBさんからこの土地を買いました。この場合、CさんがAの心裡留保を知っていなければ、AはCに対して、「私は売るつもりはなかった」と主張することはできません。


なぜ、善意の第三者に対しては主張できないのでしょうか?

  • 取引の安全性: 社会生活において、私たちは様々な契約を結びます。契約の相手が常に相手の真意まで確認することは現実的に困難です。そのため、善意で契約を結んだ第三者を保護し、取引の安全性を確保する必要があるのです。
  • 権利の安定性: 一度権利を取得した第三者の権利を、後から本人が「実はそう思っていなかった」という理由で否定してしまうと、権利の安定性が損なわれてしまいます。

善意の第三者とは?

善意の第三者とは、相手の心裡留保を知らずに、権利を取得した者を指します。

  • 善意: 相手の心裡留保について、何も疑うべき事実はなく、誠実に取引を行ったことをいいます。
  • 第三者: 当初から契約に関わっていた当事者ではなく、後から権利を取得した者をいいます。

まとめ

民法第93条第2項は、心裡留保によって無効となった意思表示であっても、善意の第三者に対しては主張できないという重要な規定です。
この規定は、取引の安全性を確保し、社会経済活動の円滑な進行に寄与しています。

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